木曽路案内人 西村 勲さん
西村さんは30年以上勤めた営林署の仕事で、ヒノキやサワラといった木曽の銘木が茂る森林に分け入り、樹木・草花・河川等についての見識を蓄積してきた。それが今、木曽を旅する人への案内に活かされている。
「ガイドをするお客さんに会ってまず、私は林野庁のOBですと自己紹介することにしています。そうすると山の話、樹木の解説にも信用が生まれるんですね。」
日本遺産にも認定されたストーリーを秘めた、我が国でも屈指の深い樹林帯。そんな故郷木曽を案内するのだから、さぞかし紹介にも力が入るだろうと思うのだが・・・
「10知ってることを10全部喋ったらお客さんは引いちゃいますよ。」と笑う。
「お客さんが質問したら答える、というコミュニケーションの部分も用意しておくことが大事。〝 なぜ?〟が生まれると、〝また行ってみたい 〟に繋がるから。」
ただ最近は、木曽の草木や御嶽信仰などに詳しいお客さんから、難しい質問を投げかけられることもあるそうで、だからこそ、山のことばかりではなく、中山道の歴史、家屋の構造、山岳信仰…等々、知識を蓄えることに余念がない西村さんだ。
樹々の間を行く古道に踏み入り、木曽川支流の沢筋を辿り、御嶽山に自生する高山の草花を写真に収め…西村さんは仕事を離れても若い頃から故郷の山河を歩いてきたそうだ。御嶽山のコマクサと八ヶ岳のコマクサの違いを教えられるのも、北・中央・南…各アルプスの名峰にも登ってきた西村さんのガイドならではだ。
2014年の御嶽山噴火災害は、西村さんにとってもとてもショックな出来事だった。
「1に安全、2にお客さん」
そう西村さんは強調する。お客さんの安全はガイドに課せられた絶対命題だ。御嶽山でもガイドをしてきた西村さんは重々承知してきたことだが、あの大規模災害でその思いを新たにした。そのうえで、木曽へ、御嶽山へ、観光客を呼び戻していくことが西村さんの願いだ。
御嶽山3合目にある清滝に連れて行ってもらった。朝降った雪が、霊山の滝に一層の清冽さと神聖さを漂わせている。
「この上にある新滝とともに、精進潔斎をする御嶽信仰の霊場です。マイナスイオンを浴びて清々しい表情を浮かべるお客さんに、周囲の森に茂るヒノキやトチなどのこと、季節によっては足元に咲く可憐な花の事なども案内しますよ。次来た時もガイドを指名されたら嬉しいよね。」
その日その時にしか出会えない風景や事象こそ旅の醍醐味だ。そんな旅人たちの「邂逅」を手伝うため、西村さんは今日もあちらこちらに足を延ばし、見識を積み重ねていく。
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