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木曽を語る

一期一会

漆職人 伊藤 猛さん

漆職人 伊藤 猛さん

2020年開催のオリンピック情報を耳にするにつけ、ふと、過去日本で開催された大会の記憶を胸に蘇らせる人もいるのではないだろうか。1964年東京、1972年札幌、1998年長野。競技の熱気、会場のどよめき、そして表彰台の選手の胸に輝いたメダルと歓声…。

漆職人伊藤猛さんにとってオリンピックの記憶はそのメダルの記憶に他ならない。多くの選手たちが栄光の感激と共に胸に提げたメダル。そのデザインを伊藤さんは創造し、仲間達と共に制作した。

「メダルの出来の良し悪しよりも、その中にもっと大切なものを込めよう」
40歳代を目前にしていた当時、伊藤さんは自分より若い職人達にそう呼びかけたそうだ。「大切なもの」とは、皆がいい関係を保って作るということ。それこそがオリンピックの意義に相応しいと思えたのだという。

伊藤さんが手がけた1998年長野オリンピックのメダル

伊藤さんが手がけた1998年長野オリンピックのメダル

漆の新たな可能性を探りたいという伊藤さんの創作活動は続く

漆の新たな可能性を探りたいという伊藤さんの創作活動は続く

多くの試作品制作やプレゼンテーション等々、伊藤さんはメダル実現に向け奔走した。木曽での制作決定後は、23工程にも及ぶ緻密な作業を、仲間と共に心を込めてこなし、蒔絵・七宝焼き・金属精密加工技術が融合した個性溢れるメダルは完成、アスリート達の胸を美しく飾った…。

あれから約20年。

「例えば金属やガラスといった異素材と組み合わせてみると、漆はガラッと表情を変えてみせるんだよね。」

今まで世の中になかったモノを作りたい、漆の新たな可能性を探りたいという伊藤さんの創作活動は続いている。

2010年、古来より人類に時を告げてきた太陽と月をテーマにした機械式腕時計を製作。伊藤さんは文字盤の中に蒔絵の奥深い美しさを凝縮させた。

また、今試作段階という携帯できるお香や位牌のセット。手のひらに収まるサイズの木箱の中に、短寸の線香が収納され、蓋は香立てになり、さらに携行できる位牌も…。和の文化を伝統的な漆の気品と共に手軽に携帯するという発想が軽やかだ。

「思えばたくさんの人と出会って、その中から僕の仕事は生まれてきたと思うんだよね」

先代の父上がこの世を去る僅か5時間前に揮毫した「一期一会」の言葉が、伊藤さんの中で生きている。

「この言葉は結局、良きにつけ悪しきにつけ人間自体を愛した亡き父の私達家族への遺言となりました。」

蒔絵の人間国宝大場松魚氏との出会い。陶器の人間国宝加藤孝造氏との出会い。黒部源流域の開拓者として知られる伊藤正一さんとの出会い。今後も様々な出会いを繰り返しながら、伊藤さんの漆世界はどんな風に展開していくのだろう。

伊藤さんと「一期一会」

伊藤さんと「一期一会」

ちなみに、2020年の東京オリンピックのメダルの事も考えているのだろうか?

「実はね……」

楽し気に語る伊藤さんの話は、〝オフレコ 〟にしておこう…。

漆職人 伊藤 猛さん

伊藤猛さん プロフィール

昭和33年 木曽平沢に生まれる。
昭和57年 金沢美術工芸大学卒業
まる又漆器店の跡を継ぐ
平成9年 長野冬季オリンピック入賞メダルの制作主任
平成22年 漆蒔絵腕時計『太陽と月』 NICHIGETSUブランドとして発表
 
伊藤さんは文字盤の中に蒔絵の奥深い美しさを凝縮させた。

伊藤さんは文字盤の中に蒔絵の奥深い美しさを凝縮させた。

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