木曽を語る
「山」と「文化財」の間で、伝統の技を守り続ける。
へぎ板 栗山木工有限会社 栗山弘忠さん
次の三つの漢字の読みを問われて、あなたは即座に答えられるだろうか?
茅 檜皮 杮
日本の歴史を伝える重要文化財建造物の屋根の多くは、この3種類の植物性資材で葺かれてきた。「かや」、「ひわだ」、そして「こけら」。つい最近まで杮(こけら)と柿(かき)は同じ漢字だと思っていたのは自分だけではないと思いたい…。そして、そういう基本的なところからもう一度、日本建築と山の文化との関係を学びたいと思わせてくれたのが、杮葺の材料となる板材を「へぐ」という伝統技法で製作する栗山木工有限会社4代目、栗山弘忠さんだ。
杮は「木片」を意味する。杮葺は板葺の一種で、椹や杉などの薄い手割りの板を野地板の上に1寸(3cm)ほどの間隔で葺き重ね、竹釘で留めて順次上の方向へ葺きあげていく工法だ。…などと知ったかぶりできるのも、実は栗山木工有限会社のホームページがあればこそ。
「うちのホームページ、見る人が嫌になるくらい、文字がすごく多いんですよね。もう詰め込めるだけ詰め込もうって」
と笑う。弘忠さんは、杮葺の事、自らも職人である板へぎのこと、森林資源の現状といった、自分が伝えたいと思う事を、ホームページやSNSも使い発信し続けている。

へぎ板 栗山木工有限会社 栗山弘忠さん
木曽の山がすぐそこに連なる工場では、小・中学生の見学も積極的に受け入れているそうだ。
「この山のすそ野、一般社会と接するか接しないかのここが僕らの立ち位置です。重要文化財の屋根材を供給する仕事をさせてもらうのはもちろん光栄だけど、伝えたいのは、昔は一般家屋も板葺屋根で、「へぎ」職人も地域にたくさんいたということ。「へぎ」は郷土の伝統技術なのだということを、地元の子ども達に伝えていかないとね。」
そんな弘忠さんだが、実は高校生の頃、家を継ぐのが嫌だったと話してくれた。東京の大学に進学し、カタカナの仕事に憧れた。大学4年、就活はすでに最終面接まで進み、都会での「スーツ生活」をほぼ手にしていた夏休み、帰省して何気なく覗いた工場に、一人板をへぐ父親の姿を見つけたそうだ。
「なんだか、かっこよく見えてね、その手が…。それで、帰ってきちゃった。」
弘忠さんが代を継いでから、創業以来、親族が中心だった職人構成も、次第に若手が増え、次の時代に向けて動き出している。
「教えるというより、一緒に学んでいます。板へぎは手の感覚がすべて。とにかく木に触れ・・・です。」
へぎ板の表情は独特だ。また、木はへがれる時、独特な音がする。言葉では表現できない。生で見聞きするのが一番だが、その前に入門編、とりあえずはホームページを開いてみてはいかがだろう。

作業風景

へぎ板